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高松高等裁判所 昭和44年(う)273号 判決

主文

原判決を破棄する。

被告人を懲役三年に処する。

原審における未決勾留日数中三〇日を右本刑に算入する。

理由

本件控訴の趣意は、記録に綴ってある検察官田村進一郎作成名義の控訴趣意書に記載のとおりであるから、ここにこれを引用する。

(一)  論旨第一の理由に「くいちがい」があるとの主張について、

所論は、原判示第五の事実認定につき、窃盗の着手ないし未遂の所為については、なんらの判断ないし認定を示さないで、原判決が「盗犯等ノ防止及処分ニ関スル法律」第三条を適用したのは、理由に明らかな「くいちがい」があるというのである。

よって、所論に鑑み、職権調査を加えて記録及び原審の証拠を精査すると、原判示第五の住居侵入に関連して、次の事実が認定できる。

即ち、昭和四四年七月一七日午後一〇時頃、自転車に乗って夕涼みに出かけた被告人は、小遣銭もなく、日頃の盗癖がでて「盗みをしてやれ」という気になり、国道一一号線を東進して盗みにはいる家を物色し、牟礼町大字二〇三一番地商業木村照雄方店舗前にいたり、マーケット様の相当大きい店であるところより、同店に盗みに入ることを決意し、自転車をその附近に置いて、木村商店表出入口附近のガラス戸、ガラス窓を引いてみたが、施錠がしてあり開くことができなかったので、店舗の南側露地を入って、右木村方横出入口に行き、雨戸を持ち上げて外し、施錠のないガラス戸を開いて、内側の土間に侵入し、マッチをすって見廻すと、板縁の端に四角の箱に入れたパンが見えたがそれ以上のものを物色するため、そこから店舗に通ずる通路の方に行こうとした時、近くの八畳の間で寝ていた木村照雄の妻昭子に「誰な誰な」とさけばれたので、つかまっては大変だと思って、何物も得ずそのまま、はいった所より逃げ出したものである。

右認定の如き事実に加えて、原判示第一、第二、第四の各店舗窃盗において、いずれも所携のマッチをすって、盗品を物色している事実を併せ勘案すると、本件につき前記の如き被告人がマッチをすって物色行為に及んだ段階において窃盗の着手があったものと認定することは可能であるのみならず、かく認定することが事案の真相にも合致し、また原判決が指摘する本件の住居侵入を別個の併合罪と認める不合理性を事実認定により被告人に有利に解消できるのに拘らず、原審は、これを看過して釈明権を行使せず(冒頭手続において、釈明の必要を認め、弁護人においても、常習一罪と主張するところよりすると、証拠調の結果によって、更に釈明をつくすべきである)、訴因の追加、変更を勧告ないしは命ずることもなく、公訴事実のとおり住居侵入のみの認定にとどめたのは、判決に影響すること明らかな審理不尽の違法があり、ひいては、所論にいう理由の「くいちがい」ないし理由不備の結果を招来しているものと認められる。

この限りにおいて、論旨は理由があり、その他の控訴趣意を判断するまでもなく、原判決は破棄を免れない。

(二)  よって、刑訴法三九七条一項、三七八条、三七九条、三九二条により原判決を破棄し、当審において、訴因の追加、変更がなされてもいるので、同法四〇〇条但書により当裁判所において直ちに判決する。

(罪となるべき事実)

原判示第五を次のとおり変更する外、原判示の罪となるべき事実を引用する。

第五 同年七月一八日午前零時四五分頃、同県木田郡牟礼町牟礼二〇三一番地所在の木村照雄方店舗において窃盗をしようとして、同人方居宅出入口の雨戸を持ちあげて外し、その内側のガラス戸を開けて土間に侵入し、マッチをすってあたりを見廻わして盗品を物色中、家人に発見、誰何されて逃走し、窃盗の目的を遂げなかった。

(証拠の標目)≪省略≫

(累犯前科)

被告人の前科調書及び原審における供述によると、

一  昭和三六年五月二日、窃盗等により懲役三年に処せられ、同三九年五月一日、右刑の執行を終了

二  同三九年一二月二三日、窃盗により懲役二年八月に処せられ、同四二年八月二一日、右刑の執行を終了

三  同四二年一二月二二日、窃盗により懲役一年三月に処せられ、同四四年三月二日、右刑の執行を終了

したものと認められる。

(法令の適用)

判示各窃盗犯は、常習的一罪として盗犯等ノ防止及処分ニ関スル法律三条、二条、住居侵入は刑法一三〇条前段に該当するところ、右住居侵入は、右常習的一罪の一部の手段たる関係にあるものと認められるので、刑法五四条一項後段、一〇条により重き右常習累犯窃盗の罪の刑により処断することとし、更に前記の如き累犯前科があるので、刑法五九条、五六条一項、五七条により、同法一四条の制限内で四犯の加重をした刑期の範囲内において、犯情を考慮し、被告人を懲役三年に処することとし、原審における未決勾留日数の算入につき刑法二一条、訴訟費用の免除につき刑訴法一八一条一項但書を適用する。

よって、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 小川豪 裁判官 越智伝 小林宣雄)

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